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表面筋電図の計測と解析 (1)筋電図の計測

筋電図の種類と同期センサー

筋電図を計測するために必要な筋電計には有線タイプと無線タイプがありますが、無線タイプは筋電図を計測する場面を制限しないため、近年では無線タイプが標準的です。また、タブレットなどでモニタリング可能なモニタータイプは、パソコン無しで筋電図を確認することが容易なためベッドサイドでリハビリテーションを行う場合や、患者さんが筋電図を視覚的および聴覚的に理解し、筋活動をコントロールする筋電図バイオフィードバック治療にも利用できるよう工夫されています。これらの筋電図を計測する目的の筋電計は、わずらわしい設定が不要であり、後述するアーチファクト(雑音)も少なくなるように設計されています。

筋電図を計測する場合、身体運動の状況を他のセンサーなどで計測し、同時に入力(同期)しておくと詳細な解析に役立ちます。たとえば、関節の角度を角度計で、歩行の際、足が地面に接地するタイミングをフットスイッチで、そして「いわゆる筋力」を筋力計にて入力します。また、ビデオ画像は細かな身体全体の様子を観察でき大変便利です(図1)。

 

その他、多用途筋機能評価装置(バイオデックスシステム4)や三次元動作解析装置などの同期信号が入力できると研究活動や臨床での病態運動学的解析に効果を発揮します(図2)。

 

今から筋電計の購入を検討されている方は価格も重要ですが、各筋電計の特徴を理解して購入することをお勧めします。
購入の際のポイントは、①計測可能なチャンネル数、②検討したい内容が解析アプリケーションに入っているか、③身体状況把握のため同期センサーからの信号が入力できるかなどです。

筋電図計測の実際

筋電図を計測するためには表面電極の設置が必要ですが、計測したい筋の電極設置部位に対し皮膚前処理をする必要があります。
皮膚前処理とは、皮膚前処理剤を用いて電極設置部位を擦ることにより、油分や角質を落としインピーダンス(電極と皮膚の接触抵抗)を減少させることです。
皮膚前処理の後、チェッカーを用いてインピーダンスレベルが5キロオーム以下になっているか確認します(図3)。

電極は計測したい筋線維を走行に沿って設置します。筋線維の走行は,解剖学の本や表面筋電図マニュアル(酒井医療)などを参考にします。
筋電図は2つの電極間の電位差を図として表現するため、該当する筋に並べて2つ貼り付けます。
電極設置部位は筋腹中央か、神経支配帯(各筋線維の神経筋接合部が集合している場所)を避けるようにして電極間距離を常時一定にする必要があります。クロストーク(筋電図を計測する筋に隣接している他の筋からの電位混入)を逃れるため、また、できるだけ一定の振幅を得るため理想的な電極間距離は1~2cmとします(図4)。

電極を設置し、計測の準備が整ったら被験者に力を抜かせ、筋収縮が全くない状態(安静)を取らせます。
この時、画面の基線を確認し可能な限り直線状態になっているか、アーチファクト(雑音)が混入していないかを確認します。
アーチファクトとは、モーションアーチファクト(電極に接続しているケーブルが揺れている)、交流電流、心電図などで、目的とする筋の筋電図以外の電気を表します(図5)。

基線を縦軸方向に拡大して観察し、アーチファクトが認められれば除くようにします。
筋電図計測の条件が得られれば、実際に計測を開始して、計測中もトラブルが起こってないか確認することが必要です。

下記に「筋電図計測の流れ」と「筋電図計測の注意点」をまとめておきますので参考にしてください。

筋電図計測の流れ

1. どのような目的で筋電図を計測するか決める。

2. 表面筋電図を計測する筋を決める。

3. 筋線維の走行を確認し、電極設置部位を決める。

4. 皮膚前処理を行う。インピーダンスチェックを行う。

5. 電極間距離を一定にし、電極を設置する。

6. 筋電計本体の設定を確認し、ケーブルを継ぐ。

7. 安静時の基線を確認する。

8. 動作を行わせ、筋電図を導出する。

筋電図計測の注意点

A. 長時間の計測の際は、電極がはがれていないかチェックする。汗にも注意。

A. 関節角度や運動(筋収縮)速度が変化すると筋電図が変化するため、できる限り一定にする。

A. 大きな関節可動域を必要とする運動は筋線維の移動も大きくなるため電極とのズレが生じやすいことに注意する。(最も理想的な計測は等尺性収縮)

A. 隣接する筋がある場合にはクロストークに注意する。

A. 筋疲労を伴う運動では、疲労ともに筋電図も変化するので注意する。

A. 筋電図が計測しているものは活動電位であり「いわゆる筋力」とは異なることに注意する。