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表面筋電図の計測と解析 (5)筋電図による周波数因子の解析

(5)筋電図による周波数因子の解析

筋電図は先に述べた量・時間的因子の解析のほかに周波数要素でも解析が可能です。この解析は主に筋疲労を判断することに用いられています。
筋電図波形は一つの連続した波としてあらわされますが、その波は干渉波形であり、さまざまな周波数を持つ波形が含まれています。それを数学的手法によって、どのような周波数が含まれているかを計算することが周波数解析です。
周波数解析には高速フーリエ変換(fast Fourier transform;FFT)が良く用いられます。筋電図波形を横軸に周波数成分の分布、縦軸に各周波数成分の振幅の二乗(信号のパワー)として変換したものをパワースペクトルと呼びます。
図1の上段の図を見てみましょう。左が原波形とします。FFTにて周波数解析を行うと右の図に見られるよう1Hz、3Hz、5Hzの周波数を持つ波に分解することができました。実際の筋電図はもっと複雑で下段の図のようになります。

中間周波数と平均周波数

パワースペクトルは分布図ですから、中間周波数や平均周波数を用いて1つの代表値として数値化します。中間周波数(median power frequency:MF)は、パワースペクトルの面積を2つの等しいエリアに分ける周波数、平均周波数(mean power frequency:MPF)は各周波数の平均値で示します(図2)。そのどちらを用いても差し支えありません。数値は多少異なりますが同じ意味を持ちます。

筋疲労の評価

最大努力で筋収縮を持続させ、筋疲労の状態を中間周波数で見たものが図3です。筋が疲労するに従い周波数が低値になっていく様子が理解できます。AからD地点でのMFをみると、86.4Hzから徐々に低周波帯に移行し(徐波化)、67.4Hzとなっています。この低周波へのシフトが起こる要因として、運動単位の同期化、運動単位動員の増加と減少、筋線維伝導速度変化、筋内圧変化などさまざまな因子が関係しています。臨床的には図4に示すように、 TypeⅡ筋線維の方が高周波であり、筋の持続収縮により疲労しやすいTypeⅡ線維から働かなくなるからと考えると理解しやすいと思います。

周波数解析で注意すること

FFTを用いて周波数解析を行う場合、力の増減がある活動の筋電図は注意が必要です。図5を見てみましょう。この左図は徐々に筋収縮を増加させたときの筋電図を示します。整流した振幅が次第に大きくなっています。3秒ごとに区間を分け、筋電図原波形をFFTにて周波数解析を行いました(周波数解析の場合、整流やRMS処理は必要ありません)。平均周波数も徐々に高くなっていくことが理解できると思います。すなわち筋収縮の増減により周波数は変化することを忘れないでください。FFTは定常波形のための分析法であり、波形の増減が不規則な場合は困難です。
たとえば、仕事やスポーツ活動が筋疲労に影響を与えるかどうかを検討したい場合を想定します。それらの活動は一定ではなく、さまざまな強度に筋収縮が変化します。不規則な筋活動となります。そのような場合、実際の活動場面では解析できないため、目的とする仕事やスポーツ活動の前後で筋電図を計測し(一般に最大等尺性収縮が用いられます)、周波数解析を行います(図6)。もし筋疲労が起こっていれば周波数は低周波帯に移行するでしょう。