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1.高齢者の身体機能低下とそのリハビリテーション

(6)バランス能力の低下

バランスが良いとは、状態や現象が一定に保たれ、安定していることを示しています。
そして、バランスは静的バランスと動的バランスに分けられています。
静的バランスが良いとは、物体に外力が加わった時に動かず静的平衡が保たれている状態、また、動的バランスが良いとは、物体が動いている際に、外力が加わっても動的平衡が保たれている状態を言います。
高齢者の場合、静的バランスも動的バランスも機能低下が認められ、転倒の要因になります(図1)。

図1 重心動揺の加齢変化

バランス能力に影響を与える因子(図2)

バランス能力には、さまざまな因子が関係しています。
・平衡機能:運動に伴う姿勢を維持したり、調整する神経系の機能(原始反射、立ち直り反応、平衡反応など)。
・運動能力:関節の柔軟性、筋力、敏捷性、骨のアライメント(並び)や姿勢など。
・感覚機能:表在感覚(皮膚の感覚)、深部感覚(運動の感覚)、特殊感覚(視覚や聴覚など)。
・認知機能
・環境:路面の状態や障害物、明暗など

図2 バランス能力に影響を与える因子

バランス能力の評価

バランス能力を評価するためには、重心動揺計に代表される機器を用いた方法と、特別な機器を用いない方法があります。

① 身体重心(center of gravity、COG、図3)
身体重心は、身体全体の重さの中心です。静止立位時の重心は、骨盤内で仙骨のやや前方にあります。成人男性場合、足底から身長の約56%、成人女性では約55%の位置にあるとされます。重心から床に垂直に下ろした線を重心線と呼びます。
重心位置が低いと安定性は高くなります。

② 支持基底面(base of support、図3)
支持基底面とは、身体の床面に接している部分の外周により作られる広さ(領域)をいいます。支持基底面が広く、重心線が支持基底面の中心に近いほど安定性は高まります。

図3 身体重心の位置と支持基底面

③ 圧力中心(center of pressure、COP)
物体が床面上に乗っているとき、その反力の中心位置を圧力中心といいます。

④ なぜ、バランスを崩すのか、転倒するのか?
重心位置が支持基底面から逸脱する点を安定性の限界と呼び、その限界を超えた場合、不安定となり転倒します(図4)。

図4 なぜ転倒するのか

【バランス能力の評価方法】

バランス能力を評価することの意義は、バランス能力の程度を評価すること、バランス能力が低下している原因を探ることの2つが挙げられます。

① 開眼片脚立位テスト
これは、眼を開けたままで、その場で片足を上げて立ち、何秒立っていられるかを計測します。
評価基準は研究により様々ですが、参考例を挙げておきます。
1) 転倒歴のある者では30秒以内
2) 健常高齢者で15秒、要支援以上では3秒以下
3) 後期高齢者で転倒群は1.7±1.5秒、非転倒群では6.3±6.5秒
4) 一般高齢者で男性60歳代46.2±20.5秒、70歳代31.8±23.5秒、80歳代20.0±11.4秒、女性60歳代45.1±19.5秒、70歳代32.0±21.9秒、80歳代14.6±16.2秒

② Shot Physical Performance Battery
閉脚立位、セミタンデム立位、タンデム立位を行わせて静的バランス能力を評価します(図5)。

図5  Shot Physical Performance Battery (バランステストのみ抜粋)

③ ファンクショナルリーチテスト(Functional Reach Test)
立位姿勢から、できる限り片方の上肢を前方に突き出させ、その距離を計測します。
カットオフ値として、
1)41〜69歳=33〜40cm、70〜87歳=25〜33cm
2)25cm未満では歩行非自立群が多い
3)60〜69歳=36.85±0.53cm、70〜79歳=34.13±0.54cm
4)15cm未満で転倒の可能性が増大

④ 後方歩行(図6)
後方歩行の能力は高齢者で著しく低下。高齢転倒者は歩行速度が0.6m/秒以下。

図6 後方歩行の速度の基準値

⑤ その他
Timed up and go test(TUG)、Berg balance scale(BBS)、4 stage balance test、Four Square Step Test、Dynamic Gait Index、Balance evaluation systems testなどがあります。

バランス能力の回復

バランス能力は、多くの因子が関係することから多次元的なアプローチが必要となります。どんな状態で、どの方向に、どれくらいの頻度でバランスを崩しやすいか(転倒するのか)、その原因と考えられることはなにか、杖・歩行車などの介助支持物も含め、どんな戦略を用いて転倒を防ぐことができるのかを考えて短期的・長期的にアプローチすることが重要と考えられます。

(7)転倒予防へ