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高齢者の身体機能低下とそのリハビリテーション (7)転倒予防

高齢者にとって転倒は、寝たきりに結びつく可能性が高く、ぜひ予防しておきたいことですが、なかなか難しいのが現状と思います。とは言え転倒を予防することはとても重要なことと考えられますので、転倒について話を進めていきたいと思います。

転倒の発生率

地域在住高齢者(65歳以上)による転倒発生率の報告をみると、およそ20〜35%の人が転倒を起こしているとしています。その内、骨折合併率はおよそ5〜10%程度とされています。

転倒が起こす問題

転倒が起こす心身への影響で最も重要となるのは骨折を発症することです。
高齢者でよくみられる骨折は4つで、大腿骨近位部の骨折(特に大腿骨頚部骨折)、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位端骨折、前腕骨遠位端骨折があげられます。
特に高齢者では骨が弱くなっていることが多く、容易に骨折を起こします。
また、転倒により歩くことへの恐怖心が湧き上がることも注意が必要です。恐怖心により、歩かなくなることは廃用性症候群をきたしやすく、さらに身体機能を低下させ、転倒を助長することになります(図1)。

転倒の要因

転倒には、防ぎきれるものと防ぎきれないものがあるとは考えますが、予防するためには、できる限り転倒要因はつぶしておくことが重要です。転倒の要因は、身体機能など自分自身の体に起こっている内的要因と道路や階段など環境要因、すなわち外部要因があります(図2)。

いつもこの場所で転びそうになる、何度も転倒している場所などがあれば対処は、それほど難しくはありません。いつもは大丈夫だけど、たまたま転んでしまったなど、だれが、どこで、いつ転ぶかは予想が難しいのが通常です。そんな時は確率論で考える必要があります。

1) どこで転ぶのか?
最も多いのが、普通の道。ついで階段、部屋の中でしょうか?
いずれも何でもない普通の場所ということになります。

① ぬれている場所は気をつけよう。
風呂場、台所、雨や雪の日のマンホールや塗装などですべりやすい場所など。

② 段差や階段は転びやすい。
階段、玄関、居間などの敷居やカーペットなど。

③ 片づけがされてなく、ゴチャゴチャ物が置いてある場所も気をつけよう。

2) どんな転び方をする?
1位は、つまずく。そしてすべる、足がもつれるなどのふらつきでしょうか?

3) 履物はなに?
くつを履いている場合が多いのでしょうが、サンダルやスリッパは気をつけましょう。
そして、ストッキングやくつ下もすべりやすいようです。

4) 転ぶ方向は?
前が最も多いようです。ついで横でしょうか?

5) 脳卒中やパーキンソン病、失調症などの中枢神経疾患も転倒率が高くなります。

6) 動作が遅いなどの身体機能の低下が明らかな高齢者は転倒リスクがあがります。

7) 杖やシルバーカーなどを使わないと歩けない高齢者も転びやすくなります。

8) 足に装具(長下肢装具や短下肢装具)を使っている人が装具を使用できない場合。

9) 歩く速度が遅い人も転倒リスクがあがります(4)歩行脳力の低下参照)

10) ここ1年間に1回でも転倒経験のある人も転倒リスクがあがります。

11) 外的(環境)因子として、わずかな段差、すべりやすい床、履物、敷物、電気コード類、照明不良、階段、
不慣れな場所など。

12) 二重課題(2つの動作の同時進行)は、転倒リスクを高めます。

転倒のリスク因子

先行研究からみた転倒危険因子を見てみましょう。Rubensteinらによれば、筋力低下が最も転倒リスクが高く、ついで転倒経験、歩行障害、バランス障害としています。
筋力低下がある人は、ない人に比べ4.4倍転倒リスクが上昇します(図3)。

また、ここには述べられていませんが、薬も転倒要因になります(表1)。どんな薬を飲んでいるかわからない場合は、およそ4〜5種類の薬を飲んでいる人はなんらかの影響を受ける可能性があるとしておきましょう。

法は、いくつも存在しますが、簡単に検査するために歩行・バランス機能をみる方法があります。それは、ファンクショナルリーチテスト、タイムアップアンドゴー、Get up and go test、Berg balance scale、Performance-Oriented Mobility Assessment(POMA)、4 stage balance test、Trail Making Testなどでしょうか。
また、バランス能力を構成する要素を決定し、その要素ごと(生体力学的制約、安定性限界と垂直性、予測的姿勢制御、姿勢反応、感覚指向性、歩行安定性)の評価を行うBEST testやその簡略版でMini-BEST testも注目を集める評価法です(http://www.bestest.us)。英語版が多いのですが日本語訳されているものもありますので、インターネットでさがしてください。
転倒リスクの第1因子である筋力については握力、30秒椅子立ち上がりテスト(30-CST)が簡便です。

その他、鳥羽研二先生らによって開発された転倒リスクスケールは、身体機能、老化、環境の観点から転倒リスクを評価できる方法があります(鳥羽研二他:日老医誌42:346-352、2005)。

※歩行をみて簡単に転倒を予測してみましょう(図4)。

以下の7項目がチェックポイントです。この能力が欠けている場合、転倒リスクが高まります。

1) 全体的にバランスは良いか?
前に倒れそう?後ろに倒れそう?横にふらつき倒れそう?など全体的な印象をつかむことは重要です。

2) 踵から接地していますか?
踵から接地できない場合は、つまずきの原因になります。

3) 足が後ろから前に出て接地する際、床との間に十分な距離(クリアランス)がありますか?
また、まっすぐ前に出てきますか?外からまわってきませんか?

4) 体重を片足で支えているとき、十分な筋力を発揮していますか?
膝がガクンと折れてしまうことはありませんか。膝が棒足のようにまっすぐではありませんか。

5) 接地している足が体の後方で充分蹴っていますか?

6) 話ながら歩くことができるか?話すとき立ち止まるか?

7) ターンは安定してできますか?

転倒予防への介入

転倒は、さまざまな要素がからんで発生することから、運動介入も筋力・持久力・バランスなどを含んだ運動が望ましいと考えられます。また、2つのことを同時に行う二重課題型トレーニングも有効です。さらに、自分自身も転倒を予防するという意識が重要ですので、転倒予防の知識を得ること、自分の転倒リスクを知ること、家の中で転倒しやすそうな場所をチェックするなど、1度ではなく、ときどき振り返ることで転倒への注意喚起を高めておくことが必要です。