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高齢者の身体機能低下とそのリハビリテーション (8)骨粗鬆症と高齢者の姿勢

骨粗鬆症とは「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」としています(WHO世界保健機関)。

骨強度と骨粗鬆症

骨強度は、骨密度と骨質の2要因からなり、その骨強度の70%は骨密度が受け持っています(図1)。

骨は、皮質骨(緻密骨)と海綿骨に分けられる。外側にある皮質骨はカルシウムやリンを主成分とする硬い骨で、海綿骨はその内部にある多孔質の組織です。いわゆる外層と中にある柱により、骨の強度を保っています。
骨は、成長期に活発に作られて、20歳代で骨量はピークを迎えます。40歳くらいまではおよそ一定ですが、その後、加齢とともに減少していきます。

骨は成長期が終わっても、代謝を繰り返し、破骨細胞により骨は破壊、吸収され、骨芽細胞により骨は作られます(リモデリング)。
骨粗鬆症とは、なんらかの原因によりリモデリングのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回り、骨量が減少し発症します。また、骨質の低下も骨粗鬆症の原因になります。

骨粗鬆症の有病率

年齢が進むほど有病率は増加しますが、特に女性では、50歳代後半より急速に骨粗鬆症を発症する頻度が上昇します(図2)。

第2〜4腰椎と大腿骨頚部の骨粗鬆症有病率を比較すると、腰椎に比べ大腿骨頚部の方が有病率は高くなっています。その傾向は女性で顕著です(図3)。

骨強度低下のメカニズム

骨の強度は骨密度と骨質の2要因により決定されており、さまざまな内的と外的要因に左右されます。骨密度を維持するためには、骨吸収と骨形成の量は等しくなければなりません。骨吸収が異常に活性化され、吸収された骨量を骨形成により補充できないと、骨密度は低下します。また、骨質は骨の素材としての質である材質特性と、その素材を元に作られる構造特性(微細構造)により規定されています。石灰化が不十分だったり、微小な骨折や断裂、連結性の低下が起これば骨質は劣化します(図4)。

加齢により骨密度が低下するのは、女性ホルモンの分泌低下、腸管でのカルシウムの吸収が悪くなる、カルシウムの吸収を助けるビタミンDをつくる働きが弱化するなどの理由があります。
特に女性では、50歳前後で閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の急激な枯渇に伴い、閉経後10年ほどの間に骨量は著しく減少し、骨粗鬆症と判定される領域に進行していくことになります(図5)。
※エストロゲンは、骨の新陳代謝に際して骨吸収をゆるやかにして骨からカルシウムが溶け出すのを抑制する働きがあります。

また、運動や食事量の減少、関節リウマチ、甲状腺機能亢進症、糖尿病、慢性腎臓病、動脈硬化、慢性閉塞性肺疾患など骨粗鬆症の原因となりやすい病気の発症なども関係しています。

骨粗鬆症の症状

骨粗鬆症の症状で最も怖いのが骨折です。高齢者に起こりやすい骨折は、大腿骨近位部骨折(頚部骨折)、脊椎圧迫骨折、手首の骨折(橈骨遠位端骨折)、上腕骨骨折で、いずれも転倒により発症する場合が多いとされます。
その他、立ち上がるときや重い物を持つと背中や腰が痛む、背中や腰が曲がってくる、身長が縮んでくるなどがあります。
いずれにしても、骨折や脊柱変形、姿勢異常などは、疼痛や廃用症候群、消化器疾患や心肺機能低下などに結びつき、日常生活活動、QOLの低下を招くばかりか死亡リスクの上昇にもなります。

骨粗鬆症の診断

骨粗鬆症には、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症があります。

1) 原発性骨粗鬆症
原因となる明らかな疾患などがなく、主にエストロゲンの欠乏や加齢により引き起こされるもの。全体のおよそ90%をしめています。

2) 続発性骨粗鬆症
原因となる特定の病気や薬の影響により二次的に起こるもの。内分泌性、栄養性、薬物、不動性、先天性、その他に分けられます。

正確に骨粗鬆症を判断するのは、診察、X線像などの画像、血液検査、骨密度測定で行われます(図6)。

X線検査では、骨のつぶれや変形、骨折の有無がわかります。血液・尿検査では骨粗鬆症に関係するビタミンやホルモンの働き具合、骨密度検査では骨のスカスカ度を判定します(図7)。

現場で行うことができる簡単な検査法

1) FRAX(骨折リスク評価ツール、Fracture Risk Assessment Tool,WHO)
FRAXは、ヨーロッパ、北米、アジア、オーストラリアでの人口に基づく研究から生まれました。この評価で10年以内の大腿骨近位部骨折発生リスクと主な骨粗鬆症骨折(脊椎、前腕、股関節部あるいは肩部の骨折)の発生リスクを推定することができます(図8)。

2) FOSTA指標
アジア8ヵ国、800人の女性を対象として行われた研究では、年齢・体重と骨密度との間には密接な関係があることがわかっています。この研究から作られた計算式で、骨密度の低下リスクを予測することができるというものです(図9)。

3) 身長低下
文献上、およそ2.1〜4cm以上の身長低下は、椎体骨折を疑うとの報告が認められます。椎体骨折は背骨の骨折ですので、身長の低下が骨盤から下肢の高さには影響がないことを確認する必要があります(図10)。

4) 脊柱の変形の見かた(図11)

  • ① 壁—後頭間距離
    壁際に直立させたとき、壁に後頭部がつけられない場合に胸椎レベルに椎体骨折が存在する可能性が高いと判定します。
  • ② 肋骨−骨盤間距離
    立位で後方から肋骨と骨盤の間に手を入れて2横指未満であれば、腰椎の椎体骨折が存在する可能性が高いと判定します。

骨粗鬆症の治療

骨粗鬆症の治療や予防には、薬、食事、運動などがあります。

1) 食事
カルシウムは骨にとって重要な栄養素ですが、カルシウムを十分とることのみで骨粗鬆症が予防できるわけではありません。骨代謝に大切な栄養素は、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、タンパク質です。したがって、バランスの良い食事をすることに心がけましょう。

2) 運動
ウォーキングやその他の有酸素荷重運動、筋力強化により骨密度の維持や上昇効果が報告されています。その例を挙げますと、

  • ① 閉経後の骨量減少・骨粗鬆症患者(49〜75歳、平均65歳)においてウォーキング(8,000歩/日、3日以上/週、1年)は腰椎骨密度を1.71%上昇させる。
  • ② ウォーキング(30分/日)と筋力強化(2日/週、1RMの40%負荷で8から10回/日から開始)は骨密度維持に有効である。
  • ③ 太極拳(1日/週)とホームエクササイズ(3日/週)を9ヵ月行うことは閉経後の骨粗鬆症女性(45〜70歳)の大腿骨近位部骨密度を上昇させる。
  • ④ ダイナミック・フラミンゴ療法(図12)

骨密度が上昇したとの報告も見られますが、逆になかったとの報告もあり十分なエビデンスがあるとは言えませんが、転倒発生率を低下させることがわかっています。自宅で簡単にできる方法ですので取り入れてみても良いと思います。方法は、目を開けて、片足立ちをするだけです。あげる足は5cmほどのわずかでかまいません。左右1分間ずつ、3セット、1日1回を目安に行いましょう。なお、転倒を防止するために机や壁などわずかにふれて行ってもかまいません。

いずれにしても、ある程度の負荷をかけることや継続的に運動を取り入れることが必要と思われます。

3) その他
骨粗鬆症は生活習慣病など病気との関連も報告されています。高血圧や脂質異常症、糖尿病などにならない生活習慣も重要です。
また、転倒は骨折を起こしやすいものです。転倒の内的因子・外的因子(7 転倒予防参照)を考慮し、転ばないように気をつけましょう。転倒による骨折リスクが高い場合、大腿骨頚部骨折予防のヒップ・プロテクターによる転倒衝撃軽減を行うことが必要かもしれません。