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1.高齢者の身体機能低下とそのリハビリテーション

(1)サルコペニア

サルコペニアとは

まずは下の図1を見て下さい。異なる二人の女性の大腿(太もも)中央部の断面画像をトレースしたものです。白い部分が骨、そのまわりの薄いピンクが筋肉です。ともに70歳ですが、いったいどこが違うのでしょうか?
Bの女性の筋肉は明らかに小さいことがわかります。これが「サルコペニア」です。日本語では「加齢に伴う筋肉減少症」とでも表現するのでしょうか。
サルコペニアという言葉は、1989年、米国タフス大学のRosenbergという研究者により提唱されました。筋肉量の加齢変化は他の臓器の加齢変化より顕著であり、筋肉量の減少が歩行、運動、カロリー消費などに関係していることから、とても重要であると考えたわけです。そこでギリシャ語の筋肉を意味する“sarx”と損失・減少を意味する“penia”を組み合わせて「sarcopenia(サルコペニア)」という造語を作ったのです。このことが契機となり、筋肉の加齢変化に対する関心が高まり、今ではサルコペニアの研究が数多くされています。

さて、このサルコペニア。なぜ重要なのでしょうか?
我が国の要介護に至る原因は,前期高齢者では脳血管障害(脳卒中)によるものが多いのですが、とくに80歳以上の後期高齢者では「認知症」、「転倒・骨折」、「高齢による衰弱(虚弱)」が主な原因とされています。このなかで「転倒・骨折や虚弱」はサルコペニアと密接に関係しているのです。筋肉が小さくなる(筋萎縮という)と筋力が低下します。その結果、転倒しやすくなり、廃用症候群(不活動によるからだの機能の低下)を起こしやすくなります。また、日常生活で動かなくなることは新たな病気の発症にもつながるからです。このサルコペニアを素早く発見し、効果的に対策するかは、この国にとって、そしてリハビリテーションにたずさわる我々にとって大変重要なことになります。

図1 70歳、女性二人の大腿部中央の断面図

サルコペニアの原因と定義

サルコペニアは、数多くの要素が関係しています。サルコペニア、すなわち筋肉が小さくなる原因は、数多くの要素が関係しています。加齢以外の原因がない場合を「原発性サルコペニア」と呼び、加齢に身体の活動性低下、病気、栄養不足など他の原因が加わる場合を「二次性サルコペニア」といいます。
最近のサルコペニアの定義は、2010年に発表されたThe European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)によるものがよく用いられています。これは「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で、身体機能障害、QOL(生活の質)低下、死のリスクを伴うもの」と定めています。すなわちサルコペニアの有無は、65歳以上の高齢者を対象として「筋肉量の減少に加え、身体機能の低下あるいは筋力低下のいずれかを伴う」ことで決定されます。

サルコペニアを見つけよう

筋肉量の減少を評価するには機械が必要です。現在、最も信頼できるのは二重エネルギーX線吸収法(DXA法)というものです。これは放射線(X線)を利用する方法で体重を骨量、体脂肪量および除脂肪軟部組織の3成分に分類することができ、これにより筋肉量が計測することが可能となり基準が作られます。もっと簡単な方法はインピーダンス法(BIA法)です。これは体の組織の電気抵抗値を計測することにより筋肉量を求めます。このインピーダンス法は体組成計として一般でも購入可能です。

さまざまなサルコペニアの判定基準
・ 四肢骨格筋肉量(skeletal muscle mass index : SMI)の推定式とサルコペニアの判定(真田による、2010年)
 男性:SMI(kg/㎡)=0.326 × BMI - 0.047 × 腹囲(cm)-0.011 × 年齢(歳) + 5.135
 女性:SMI(kg/㎡)=0.156 × BMI - 0.044 × 握力(kg)-0.010 × 腹囲(cm) + 2.747
 サルコペニア診断のカットオフ値(基準値)は、男性6.87kg/㎡、女性5.46kg/㎡以下。

・ The Asian Working Group on Sarcopenia in Older People (AWGS)によるサルコペニアの判定(図2)。

・ 最も簡易的な方法(図3)
両手の母指と示指で輪っかを作り、ふくらはぎの最も太い部分と太さを比較します。

図2 AWGSによるサルコペニアの評価 図3 サルコペニア判定の簡易方法

サルコペニアを予防・改善するトレーニング

1990年、Fiataroneという研究者は、平均年齢90歳の高齢者を対象に、高強度レジスタンストレーニングを実施した結果、下肢筋群の筋肥大と筋力増加を認めたことを報告しました(図4)。2000年、Iveyらは、1RMの85%強度で膝伸展運動を週3回、9週間実施した結果、筋力が高齢者男性で26.5%、女性で28.8%、大腿四頭筋の筋体積が男性11.5%、女性12%程度増加したことを報告しました。また、若年者と高齢者のトレーニング効果に差がないとしています。さらに2007年、Krygerという研究者は、85~97歳の高齢者において、高強度レジスタンストレーニングにより筋肥大が引き起こされることを確認しました。すなわち,80~90歳以上の高齢者でも筋力トレーニングを行うことで明らかな効果を期待できることを報告しました。

* レジスタンストレーニング:目的の筋に「抵抗」を与えた筋力トレーニング。
  抵抗にはマシンや重錘による負荷などがある。
* 1RM:1回だけ持ち上げることができる最大負荷。最大筋力の指標となる。
* 高強度トレーニング:およそ1RMの80%程度の負荷をかけるトレーニング。
* 筋肥大:筋肉の横断面積や筋体積の増加。筋肥大を起こさせるには、少なくとも
  3週間以上のトレーニング期間が必要といわれる。

これらの報告に見られるように、サルコペニアの予防や改善には筋力を鍛えることが効果的であることがわかります。
高齢者は全身の多くの筋に筋肉量の減少や筋力低下を認めますが、起居移動動作や転倒に関係する筋(たとえば大腿四頭筋・大殿筋・中殿筋・腓腹筋・前脛骨筋など)は筋力低下が顕著であることから、これらの筋をターゲットとしたトレーニングが必要となります。可能であれば、高強度トレーニングで週2~3日が理想です。ただし、安全のため徐々にトレーニングの負荷を挙げてください。また、十分な効果を期待するには6ヶ月以上のトレーニングが必要となります。
高齢者の中には、高強度トレーニングに適応できない方もあるかと思います。そのような場合には、低強度にてトレーニングを行います。一般には低強度は1RMの40~60%程度の負荷をいいます。
2003年、Kuboは、中高齢女性に自体重を用いたスクワット運動を6ヶ月間実施した結果、膝伸展筋力に10%の向上が認められたが、筋肥大は示さなかったと報告しました。2012年、Mitchellらによると、低強度(1RMの30~40%)であっても疲労困憊まで繰り返すことにより、筋タンパク質合成の亢進と有意な筋肥大が観察されたとしています。このように低強度であってもトレーニングの効果を期待することができますので、根気よく実施することが必要です。
最後にトレーニングは中止すると、その効果が減少または消失して行きます。トレーニングの効果を効率よく保つためには日常生活での活動を高めることが重要となります。座っている時間を減らし、ウォーキングや趣味活動など積極的に動きましょう。また、近年、高齢者の低栄養状態も注目されています。栄養はサルコペニアとも関連が深いことから、日ごろの食事を通して栄養にも十分注意することが必要です。

図4 高齢者に対する筋力トレーニングの効果

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