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陸上競技

京セラ女子陸上競技部+Physical Studio HArt.

鹿児島を拠点に、元オリンピック代表選手である佐藤敦之監督と佐藤美保コーチの指導のもと、日本のトップチームを目指し、世界で戦える選手の育成に取り組む京セラ女子陸上競技部。フィジカルスタジオハート代表の片山司氏は、セラピスト兼トレーナーとして、パフォーマンスの発揮に的を絞って選手の体づくりと治療の両方を担っている。選手たちを交え、佐藤監督、佐藤コーチ、片山トレーナーにこの数年での変化と未来の展望を聞いた。

京セラ女子陸上競技部+Physical Studio HArt.
写真=小森園豪 文=丸山有美 2018/06/20

根拠を持ってCCラインに取り組むことで選手たちのいい体が作られてきたと思っています。

京セラ女子陸上競技部 監督
佐藤敦之
ATSUSHI SATOU

 片山トレーナーと京セラ女子陸上競技部は、どのようにして関わられるようになったのですか。

(片山)わたしが勤めていた病院に、古瀬選手が治療しに来られたことがきっかけで、治療とトレーニングの面からのサポートをご依頼いただきました。初めは、病院が休みの日だけ私が通っていましたが、もっと近くで選手たちを応援したくなって、退職して2017年にフィジカルスタジオハートを開設したんです。
(佐藤コーチ、以下コーチ)古瀬の故障がなかなか治らず、新しい病院に通い始めたころ、状況を把握しておきたくて監督とわたしで病院に付き添ったんです。それで片山先生の治療を拝見して、ぜひ一緒にチームをもり立ててほしいと思いました。2014年4月に監督とわたしが着任して、同じ年の8月頃にはすでに片山先生にサポートに加わっていただいています。

 監督とコーチの目に、初めて見た片山トレーナーの治療はどう映りましたか。

(佐藤監督、以下監督)思い込みが覆されました。治療といったら痛いところを触って治していくものと思ったら、一見故障とは関係ない背骨を触るんです。すると、痛みがとれるばかりか、こわばっていたふくらはぎが緩んで柔軟性が増していく。足裏が地面に吸い付くような立ち姿になって関節が正常に動くようになる。つまり、人間本来の体のパフォーマンスを発揮できるようになるんです。治療をしても故障を繰り返す選手をたくさん見てきたわたしは、トレーニングをしながら故障を治していくべきという考え持っていましたが、片山先生とはその点で一致していました。

  片山トレーナーがサポートに入られてからの変化を教えてください。

(監督)まずは選手たちの体重が3〜4キロ、すとんと落ちたことに驚きました。女性の長距離選手は、筋肉はもちろんのこと体に必要な脂肪を維持しながらの減量に苦労するものですが、うちのほとんどの選手は無理をせずに入社時よりも体重が落ちています。むしろ「しっかり食べなさい!」と指導しているくらい。先生のところで治療とトレーニングをするようになって代謝が上がったことが大きいですが、先生がよくおっしゃる「心と体は相関関係」も意識するようになりました。そもそも太りやすいというのは、心か体のいずれかがストレスを感じている証
拠です。そのあたりを片山先生と協力しながら、選手にとってベストな状態に持っていくように努めています。

長期的な変化についてはいかがですか。

(コーチ)片山先生がサポートに入って4年になりますが、過去の映像と見比べると、選手たちのフォームも、体型も、姿勢もまったく違っています。何よりも動きが軽やかになりました。じっさいの体重よりもずっと軽く見えるくらい。改善の余地はありますが、片山先生から体の使い方の癖を指摘されて、それを選手が自覚して理解を深めることで、わたしたちの伝えることが正確に実践できるようになっているのは確かです。初めのうちは苦しくなると崩れてしまう。それを意識したらできるレベルから無意識にできるところまで持っていく必要がありますが、選手によっては考え過ぎて行き詰まる子もいる。3人で相談しながら、選手の特性に合わせて伝え方を工夫しています。

 

「心と体は相関関係」選手にとってベストな状態を追求しています。

京セラ女子陸上競技部 コーチ
佐藤美保
MIHO SATOU

 選手たちはフィジカルスタジオハートにどのくらいの頻度で通っていますか。

(監督)選手たちは週1回、治療とトレーニングのために朝から夕方までフィジカルスタジオハートで過ごしています。故障の多い選手についてはもう少し多い。例えば疲労骨折して離脱していた選手の場合は、まずは回復を優先させ、その後、屋外でハードな練習に復帰する前に、週に2〜3回ここに通わせています。そのほか、合宿や遠征の間、鹿児島に残す選手たちをここに通わせて片山先生に見てもらっています。CCラインを使ったサーキットトレーニングが「合宿より辛い!」というのが、選手たちのもっぱらの声です(笑)。

フィジカルスタジオハートではどういったメニューをこなすのですか。

(片山)最初に各選手の状態を見て、体に残っている疲労と痛みをとり除く治療をしてからトレーニングに移ります。目的によってはトレーニングから始めることも稀にありますが、体のパフォーマンスを上げるように関節の柔軟性を引き上げる治療をしてからのほうが、筋肉・関節の動きがよりスムーズに出るんです。ほぐしてから正しい情報を体にどんどん入れていくわけです。

 

自由度が高くパフォーマンスに繋がるトレーニングが行なえる。
CCラインをアスリートに活用しない手はないと思う。

Physical Studio HArt.代表
片山司
TSUKASA KATAYAMA

トレーニングにCCラインを取り入れた決め手はどういったところですか。

(片山)使い方の自由度が高くて、パフォーマンスに繋がるトレーニングを行なえることが一番の決め手です。一般的なトレーニングマシンは、自発的にコアを作るとか、体幹軸を作ることができない。わたしがこの施設を作ったのは、選手たちの活躍を手助けするための材料を揃えるためです。CCラインを高齢者向けのトレーニングマシンとして導入している施設が多いと思います。じっさいフィジカルスタジオハートでも、年配の方や脳卒中後に麻痺の出ている方に使っていただいています。でも、わたしとしては、これらをアスリートに活用しない手はないと思っています。

 独自のCCラインの使い方をなさっていますね。緩急をつけたさまざまな動きはどれも難しそうです。

(片山)選手たちに、まずマシンの使い方を練習してもらうところから始めました。CCラインは、背もたれなどに寄りかかって体重を預け、単に腕だけを動かせばいい一般的なトレーニングマシンとは違います。自分でよっぽど踏ん張らないとできない。もう一つの特徴は、油圧式で、押すと引く、拮抗する筋を同時に鍛えられるところですね。ウエイト式のマシンだと、引く力しか鍛えられない。
(監督)CCラインは、意識してやらないと入るべきところに刺激が入らないマシンなんです。片山先生の指導で、選手たちが根拠を持ってCCラインを使ったトレーニングに取り組んでいることでいい体が作られてきたと思っています。

 

レースの朝は、ラジオ波で素早く筋肉を温めてパフォーマンスが上がるようにしました。

ラジオ波も導入されていますが、選手の皆さんに対してはどんな時に使われていますか。

(監督)大事なレースには、必ず片山先生にラジオ波を持って帯同してもらっています。うちの選手たちは、試合前に何度もラジオ波に助けられています。クイーンズ駅伝が開催されるのは11月末の仙台ですから、寒さですぐに手足が冷えてしまうので、できるだけ体の深部の温度を上げるのに使うんです。
(片山)ラジオ波で毎日お腹を温めて代謝を上げるのを助けてあげたり、呼吸が浅くなっているような場合は、呼吸器筋を温めてあげたりしました。駅伝は起きてからさほど時間が経っていないうちに走りますので、レース当日の朝は、素早く筋肉を温めてパフォーマンスが上がるようにしました。

治療器の利用に対する考えを聞かせてください。

(監督)わたし自身は、現役時代に超音波を使ったことがあるくらいですが、10年、15年くらい前までは、いまほど手軽に使える存在ではありませんでした。それがいまや劇的に進化して、治療器は選手たちにとって身近なものになっています。時代の流れに沿って、器機も生かした治療で回復を促進するのが好ましいと考えています。
(片山)治療器の怖さは、依存してしまいがちなところです。ですから、選手には、必ずわたしの指示に従って、必要なときだけ使ってもらうようにしています。大切なのは、効果を実感すること。だから、まずは痛くなっている原因はここにあるという話を必ずします。そして治療器を使ったら、その後にCCラインを試し、走ってもらい、治療前後の感覚の変化を自身で評価してもらっています。

大切なのは効果を実感すること。
治療器を使用したら必ず前後の変化を、選手自身に評価してもらいます。

トレーニングに対する考え方、指導法に関する近年の傾向を教えてください。

(監督)トレーニングの方法自体は大きく変わらないと思いますが、かつてとは考え方が違います。わたしが現役の頃は、筋トレは筋トレ、動きづくりは動きづくりとそれぞれを切り離して考えていたものです。それが、いまは二つを結びつける方向に変わり始めている。自身のアスリートとしての経験は指導には通用しません。近年、体幹トレーニングに注目が集まるようになったのも一つの例で、外遊びが少なくなくなってきた世代の選手に故障が多いことに端を発しています。我々の世代は、子どもの頃の遊びの中で自然にバランスを身につけていた。監督もコーチも常に勉強して変化を知り、世界のレベルに照準を合わせた成果につながる指導が必要です。他のチームがやらないことを実践していかねばならないと思っています。

片山トレーナーが今後チームと取り組んでいきたいことはありますか。

(片山)選手一人ひとりに、より的確にトレーニング処方ができるように、いま以上に施設に設備を増やしたいというのが一つあります。それから、合宿や遠征先に拠点を設けられたらいいなとも。ふだんは休業していて、京セラ女子陸上競技部が来る時だけ営業するなんて贅沢ですけどね(笑)。

最後に、京セラ女子陸上競技部の夢を教えてください。

(監督)駅伝で日本一になるのが目下の夢、というか目標です。まずは優勝圏内に食い込むこと、そして近い将来には日本一を獲りたいです。それから、日本代表として、日の丸をつけて世界で活躍する選手を輩出したいと思っています。

陸上競技

京セラ女子陸上競技部+Physical Studio HArt.

(きょうせらじょしりくじょうきょうぎぶ)

※写真右より順不同

佐藤敦之(さとう あつし)1978 年5月8日生まれ。福島県出身。京セラ女子陸上競技部 監督。マラソン日本歴代6 位、ハーフマラソン前日本記録保持者。北京オリンピックに男子マラソン日本代表として出場。
【主な大会記録】
アジア大会10000m 6 位(2002 年)世界ハーフマラソン8 位(2002 年)世界陸上パリ大会 男子マラソン10 位(2003 年)男子ハーフマラソン日本最高記録更新(2007年)福岡国際マラソン3 位(2007年)北京オリンピック 男子マラソン日本代表(2008 年)世界陸上ベルリン大会 男子マラソン6 位(2009 年)ニューイヤー駅伝:優勝2 回(2004/2007)中国電力区間賞:5 回(2004/2005/2007/2008/2010)※2018 年11 月現在

佐藤美保(さとう みほ)1978 年4月14日生まれ。埼玉県出身。京セラ女子陸上競技部 コーチ。800mの現日本記録、1500m前日本記録保持者。アテネオリンピックに女子800m日本代表として出場。
【主な大会記録】
女子1000m日本最高記録更新(2002 年)アテネオリンピック 女子800m日本代表(2004 年)世界陸上ヘルシンキ大会 女子800m日本代表(2005 年)アジア選手権 女子800m・1500m 優勝(2005 年)日本選手権女子800m 優勝 · 日本記録更新(2005 年)日本選手権女子800m 優勝(2004/2005/2006/2008)全日本実業団女子駅伝:準優勝/ 5 位(2004/2005)京セラ※2018 年11 月現在

片山司(かたやま つかさ)1981年3月2日生まれ。北海道出身。Physical Studio HArt.(鹿児島県姶良市)代表。作業療法士。船橋整形外科病院、清泉クリニック静岡・鹿児島での勤務を経て、2017年10月に治療、運動療法、アスリートのトレーニングまで総合的なフィジカルサポートを行う「Physical Studio HArt.」を設立。トレーナー派遣や、講演活動も積極的に行なっている。

【Physical Studio HArt.】
鹿児島県姶良市平松7227
作業療法士、柔道整復師が在籍。アスリートだけではなく、急性・慢性疼痛治療、スポーツ外傷、傷害治療、機能障害治療、リハビリ、トレーニングジム、美容など対応は非常に幅広く、近隣や遠方からも多くの患者様・利用者が集まる。

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