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高齢者の身体機能低下とそのリハビリテーション (2)ロコモティブシンドローム

ロコモティブシンドロームとは

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)は、2007年(平成19年)に日本整形外科学会によって提唱されました。「ロコモティブシンドローム」の提唱には、「人間は運動器に支えられて生きている。運動器の健康には、医学的評価と対策が重要であるということを日々意識してほしい」というメッセージが込められています。

日本整形外科学会の定義
運動器の障害のために移動能力(歩行能力)の低下をきたして、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態を「ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ,和名:運動器症候群)」といいます。すなわち、平均寿命の延びに運動器の健康が追い付いていない状態と言えます。

* 運動器とは:身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称です。運動器はそれぞれが連携して働いており、どのひとつが悪くても身体はうまく動きません。
* Locomotion:ロコモーション=移動、移動力
* Locomotive:移動能力を有するという意味

ロコモティブシンドロームの概念

運動器とは、骨・関節軟骨や椎間板・筋肉・神経などの総称で、それぞれ高齢者でかかりやすい病気があります。骨では骨粗鬆症や骨折、関節(軟骨/椎間板など)では変形性関節症や変形性脊椎症(変形性腰椎症)、筋肉ではサルコペニア、神経系では脊柱管狭窄症などです。
変形性関節症は、40歳代以降に男女とも有病率が高まります。男性では変形性腰椎症、女性では変形性膝関節症を発症することが多くなります(図1)。

骨粗鬆症は50から60歳代以降に加齢とともに有病率が増加する病気です。骨粗鬆症は男性より女性の方が圧倒的に多く認められます。
図2に示すように2番目から4番目の腰椎で骨粗鬆症の有病率をみると、男性ではどの年代も10%以下であることに対し、女性では40歳代以降、加齢とともに有病率が多くなり、80歳代以上では約半数の人に認められます。大腿骨頚部で有病率をみると、腰椎より多くの人が骨粗鬆症を発症していることがわかります。骨粗鬆症になると骨の強度は低下し、転倒などで骨折しやすくなります。

図3をみてみましょう。ロコモに関係が深い変形性膝関節症、変形性腰椎症、骨粗鬆症のうち、原因疾患を個人がどの程度発症しているか年代別に比較したものです。男性では50歳代以降、2つ以上の病気を有していることが多く、女性では70歳代以降、3つの病気を有している人が急激に上昇していることを示しています。

図4はロコモティブシンドロームの概念を示します。運動器に関係する病気が、疼痛・筋力低下・関節可動域制限・バランス能力低下などの機能障害をきたします。また、その機能障害は病気を一層悪くすることがあります。病気を複数抱えている人が、より重度な機能障害を発生させる可能性があります。
病気や機能障害は移動能力の低下を、移動能力の低下は日常生活、社会参加を制限させることは容易に考えることができるでしょう。
このような病気や機能障害の複合・連鎖が能力障害や生活活動に影響を及ぼし、能力障害や生活活動の制限が病気や機能障害を悪化させることもあります。このような悪循環により要介護になっていく可能性が大きくなります。
以上のことから、できるだけ早期にロコモを発見し、対処することで健康な自立した生活を送れるようにすることが大変重要なこととなります。

ロコモを見つけよう

1) ロコチェック
最も簡単な方法は以下の7項目ができるかどうかをチェックします。1つでも当てはまれば骨や関節、筋肉などの運動器が衰えているサインでロコモの心配があります。

1. 片脚で靴下がはけない
2. 家の中でつまずいたり滑ったりする
3. 階段を上るのに手すりが必要である
4. 家で重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難である
5. 2Kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である
6. 15分くらい続けて歩くことができない
7. 横断歩道を青信号で渡りきれない

2) ロコモ度テスト
ロコモ度テストは移動機能を確認するためのテストで、下肢筋力をしらべる「立ち上がりテスト」、歩幅をしらべる「2ステップテスト」、身体の状態・生活状況をしらべる「ロコモ25」からなっており、それぞれに判定基準が設けられています。詳しくは、ロコモ チャレンジ!(日本整形外科学会公認,ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト https://locomo-joa.jp)をご覧下さい。

立ち上がりテスト
このテストは、40cm、30cm、20cm、10cmの台から、両脚、または片脚で立ち上がることができるかをみるものです。主に大腿四頭筋の筋力を検査することができます。
図5は,立ち上がりテストと体重支持指数(Weight Bearing Index:WBI)の関係をみたものです。体重支持指数は大腿前面にある大腿四頭筋の筋力を体重で割ることにより求められます。これは体格差を補正した筋力と言えます。
40cmの台から立ち上がれる筋力(WBI)は、両脚で0.3、片脚で0.6、30cmではそれぞれ0.35、0.7、20cmでは0.45、0.9、10cmでは0.5、1.0ということとなります。これをスポーツレベルとの関係をみると、ジョギングが0.6であることから40cmの台を片脚で立ち上がれる筋力があれば十分であるということになります。これはあくまでも目安であり、多少のずれがあることを理解する必要があります。

2ステップテスト
このテストは、できる限り大股で2歩き、その歩幅(距離)を計測します。そして身長で割ることにより2ステップ値とします。
歩幅をはかることには以下のような意味があります。
歩行速度は、運動機能の制限、日常生活動作の制限(特に移動能力)、転倒の危険性、将来の寿命を予測することの指標となることがわかっています。
歩く速度は、一歩の歩幅×歩数(1分間とすれば1分間の歩数)であらわすことができます。高齢になると歩行速度が遅くなるのですが、歩数はあまり変化しないことがわかっています。つまり高齢により遅くなる歩く速度は歩幅の減少によるものが主原因となります。
図6は2ステップ値と10m最大歩行速度との関係をみたものです。相関係数0.9と大変高い相関関係を示し、2ステップ値が大きいものほど、歩行速度も速いことがわかります。

ロコモ25
このテストは、25項目の質問からなり、各項目0点~4点(0点:最も良い~4点×25項目=100点:最も悪い)で評価されます。運動器に関わる身体状態や生活状況をチェックするためのものです。
これら3つのロコモ度テストのうち、1つでも年代相応の結果に達しない場合、現在の状況が続くと「将来ロコモになる可能性が高い」ことを示しています。
また、ロコモ度テストは、簡単に誰でも実施することが可能で、定期的に数値化することで、トレーニングによる改善度などの変化も確認できます。

ロコモ度を判定する臨床判断値
2015年、日本整形外科学会はロコモの段階を判定するための臨床判断値を策定しました(図7)。「ロコモ度1」は、移動機能低下が始まっている段階、「ロコモ度2」は、生活は自立していますが、移動機能の低下が進行している段階を示します。段階に応じて、運動や食事の指導、病院受診の必要性が分かります。

ロコモを防ごう

ロコモの度合いはさまざまなレベルがあります。その程度に応じてトレーニングのやり方も異なります。自分に合った安全な方法でまずは「片脚立ち」と「スクワット」から始めましょう。

1) 片脚立ち
床につかない程度に片脚を持ち上げます。転倒しないよう必ずつかまって行いましょう。
左右1分間ずつ、1日3回程度行います。
このトレーニングは、バランス能力を向上させ、脚の骨を丈夫にします。

2) スクワット
肩幅より少し広めに足を広げて立ちます。膝がつま先より前に出ないように身体を沈めます。そして立ち上がります。深呼吸をするペースでゆっくりと5~6回程度、1日3回程度繰り返します。転倒しそうな人は何かにつかまって行います。息は止めないように、膝などが痛む場合は専門家に相談して下さい。