お役立ち情報

高齢者の身体機能低下とそのリハビリテーション (10)認知機能の低下

認知機能とは、物事を記憶する、言葉を使う、計算する、問題を解決するために深く考えるなどの頭の働きを指します。
ある調査によると、50歳あたりから徐々に認知機能は低下するといわれています。認知機能の中でも、特に物事を行う「遂行力」と「判断力」、「記憶力」は早期に低下し始め、「言語力」は70歳ころまで比較的機能が保たれるとしています。高齢者にとって、身体機能の低下による要介護や寝たきり状態を防ぐことばかりでなく、認知症をどう予防するかも気になる重要なポイントでしょう。

世界と日本の認知症患者

加齢に伴い認知症有病率は増加し、80歳代前半でおよそ10〜15%、後半で15〜25%、90歳以上になると約30%以上の高齢者が認知症になるとされています。
2015年の世界アルツハイマーレポートによると、認知症の代表であるアルツハイマー病と判定された人数は、2015年で4,680万人に及びます。そして2030年には、7,470万人、2050年には1億3,150万人に達するであろうとしています。
また、日本における認知症をみてみると、厚生労働省の推計では、2012年に65歳以上の認知症有病率は15%で、およそ462万人、このまま認知症対策が行われないと、2025年には認知症者数が700万人を超える(65歳以上の5人に1人)と予想されています(図1)。

認知症への関心深まる!

2015年に行われた日清オイリオグループ株式会社の調査では、「認知症や認知症予防という言葉が気になるようになったと思いますか?」という問いに対して、およそ70%の人が「そう思う」と答えています。さらに、「自身が認知症にならないか心配である」と答えた人は、約66%、「認知症予防に取り組みたいか?」という質問には、およそ58%の人が「取り組みたい」と回答しています。これらのことから認知症やその予防に高い関心を示していることが明らかになっています。

認知症とは

認知症とは、一度獲得した認知機能が、何らかの原因によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした状態をいいます(図2)。

認知症の原因疾患は70種以上といわれます。
認知症には主に、アルツハイマー型認知症、レビ-小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭葉変性症の4タイプがあります。この中で最も多いのがアルツハイマー型認知症(およそ50〜60%程度)とされています(図3)。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、もの忘れがひどくなることでわかります。しかし、いきなり始まるわけではなく、軽度→中等度→高度という具合に、ゆるやかな下り坂を描くように進行するのが特徴です。

軽度:日常でほころびが生じ始める。仕事や家事でミスが続く。
中等度:衣服着脱、入浴などが自分でできなくなる。トイレに失敗するなど。
高度:自分や家族のことがわからなくなる。歩く、飲み込むなどの基本動作ができなくなる。

段階が進むにつれて、生活に支障が出るため、できるだけ早期に治療を開始し、進行を遅らせることが重要です。最近では、ごく軽度の段階で対策を講じれば、予防が可能と言われています。

残念ながら今のところアルツハイマー型認知症のすべてが解明されているわけではありません。ですが、「アミロイドβ」というタンパク質が脳の中にたまることから始まるということはわかっています。アミロイドβが脳神経細胞の外に蓄積すると「タウ」というタンパク質がリン酸化して脳神経細胞の中に蓄積されます。そうすると脳の神経線維が破壊されてしまいます。破壊された脳は萎縮(小さくなる)します。脳の萎縮が進むと神経伝達物質のアセチルコリンを作ることができなくなり、脳の機能に影響を与えることになります(図4)。

およそ400万人と予測されている軽度認知障害

軽度の記憶障害はありますが、一般的な認知機能は問題がなく、日常生活にも支障のない状態を「軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)」と呼びます(図5)。

つまり、認知症予備群といえるでしょう。軽度認知障害を有する人では、高い確率で認知症に進行することから、この段階以前に予防することが大変重要になります。60〜65歳以上を対象とした調査によると有病率は、11〜17%程度といわれています。2010年の厚生労働省の調査では、MCIはおよそ380万人程度と推計されています。また、軽度認知障害や認知症は、発症の10〜20年前から脳の病変がはじまっているといわれています(図6)。

軽度認知障害であっても、全ての人が認知症を発症するわけではありません。認知症に進展する人の割合は、年間で5〜15%とされています。また、認知機能がもとに戻り、のちに正常と判定される人は、年間14〜44%といわれています。
認知機能がもとに戻るのは、脳が可塑性(回復)を持つためとされています。

ここでMCIが疑われる「もの忘れ」の特徴を表にまとめておきます(表1)。

認知機能の検査

  1. 問診
    家族歴・生活歴・既往歴など
  2. 主訴
    記憶障害、うつ、気力のなさ(アパシー)、睡眠障害、幻覚、人格や行動など。
  3. 経過
    認知症を疑うことに気づいた時期やきっかけ
    経過や変動
    記憶障害・行動の変化など
  4. 認知機能
    意識レベル、言語、失認や失行など
  5. 神経心理学的検査、画像検査、血液検査など

神経心理学的検査
認知機能を客観的かつ定量的に捉える検査はさまざまなものがあります。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート(MMSE)、
MoCA-J、時計描画検査など。

認知症を予防しよう!

アルツハイマー型認知症に代表される認知症は、糖尿病や生活習慣病との関わりが深く、原因が多次元に及ぶことから、単に脳トレのみに頼らず、食事・運動・脳トレ・休息(睡眠を含む)・ストレス回避などを組み合わせた良い生活習慣を送ることが重要となります。毎日の生活にこそ、認知症予防の鍵があるといえます。

認知症の危険因子として、遺伝的要因、社会的要因、生活習慣的要因(高血圧・脂質異常・糖尿病、ストレスなど)、老年症候群的因子(うつ・転倒・不活動・他人との交流の減少など)があげられます。防御因子としては、病気の管理(医療)、食事と運動、適度な飲酒、活動的なライフスタイル(身体活動の向上・認知的活動の実施、対人交流の増加・社会参加など)があげられます。

身体活動を高めよう
ある調査では、アルツハイマー型認知症に最も強い影響を持つ因子は、身体不活動(体を動かさないということ)でした(図7)。
したがって、体を動かすこと(日常生活での活動+運動)はとても重要です。

認知症(認知機能)に関する運動の効果

など、身体活動が認知症(認知機能低下)予防に効果があるとの報告は多数みられます。