Advance Sports & Rehabilitationアスリートの明日へ踏み出すチカラと、
それを支えるチカラ。
男子バレーボール元日本代表、越川優が語る
自分で考え、選び、行動することの面白さ。

バレーボール・ビーチバレーボールプレーヤー/ヴォレアス北海道・横浜メディカルグループ

越川優

このインタビューは、北京五輪出場や、Vリーグ優勝、イタリアのプロリーグでの活躍など、インドア時代に数々の輝かしい実績を残してきた越川選手が、その主戦場を砂の上へと変え、自身にとって二度目の五輪出場を目指していた2019年12月に行われたものである。しかし、東京五輪は新型コロナウィルスの影響で一年の延期が決定。そこで越川選手は改めて、「バレーボール選手としてだけでなくバレーボール人としてやるべきこと、自分にしかできないことがあるのではないか」と考えたそうだ。そして、これまで以上に日本のバレーボール界の発展に貢献できる方法を模索した結果、今後はビーチとインドアの二刀流で活動することを決断。来季は、V.LEAGUE DIVISION2 MENに所属するヴォレアス北海道の一員としてV1昇格を目指しながら、可能な限り並行して、ビーチバレーの大会にも参戦する予定だという。そのようなわけで、インタビュー記事の内容はビーチバレー選手として答えてくれたものになっているが、インドアとビーチバレーの練習環境の違いなど、今、読んでも興味深い話が満載なので、ぜひ一読してもらいたい。

越川優
写真=奥富義昭 インタビュー・文=石川遍 2019/12/11

思い通りにならないことも、
嘆かずに楽しむ。

「インドア時代は、練習場所もトレーニング施設もあるのが当たり前でしたが、今は全部、自分たちで用意しています」
砂浜にあるビーチバレーコートでの練習を終え、一般客も利用する更衣室へと向かう越川選手。コーチがいることもあるが、基本は2人。インドアでは当たり前にいた大勢のチームメイトたちもいない。そのため相手が必要な練習をしたいときは、他のペアにお願いしてホームビーチへ来てもらったり、自分たちから訪ねていくという。
「そういうと何やら大変そうに聞こえますが、これがビーチバレーの選手が置かれている普通の環境です。そもそも風や太陽など環境に大きく左右される競技ですから、人の思い通りにいかないことがたくさんあって当たり前。今は自分もその環境をできるだけ楽しむようにしています。急に天候が悪くなったりしても『思い通りの練習ができなくて残念』ではなく、『今日は休養がとれてラッキー』と思える人の方が向いているんじゃないかな」と越川選手は笑う。

取材場所:湘南ベルマーレひらつかビーチパーク
通年利用できる未来型ビーチ。10面のビーチバレーコートだけでなくビーチサッカーコート、バスケットボールコートも完備。夏季の海水浴場だけでなく、ビーチスポーツやビーチレクリエーションイベントが一年を通して行われている。

ただそんな越川選手も、世界最高峰と言われているイタリアリーグでのプレーを経験するまでは、もともと型をきっちり守るタイプの選手だったそう。
「結果を出さなければすぐに解雇される状況の中、常に高いプロ意識を持ってコートに立つ彼らの姿は、当時の日本のリーグではまだ見ることのできなかった光景で、とても勉強になりました。ただ一方で、こと生活面やコンディショニングに関しては考え方が自由というか、むしろ好き勝手という言葉がぴったりな感じ。もちろんそれも自立したアスリートゆえなのですが、そんな中で自分だけ決まりごとをつくって『こうでないといけない』みたいな考え方をしていたら損をするなと考えるようになったんです」
「もっと自由でいい」「そのとき、できることをやればいい」。そうした心の余裕は柔軟性となって、ビーチバレーに転向後の競技生活にもとても役立っているという。
「それが顕著に現れているのが、食事です。自分はもともと寮母さんの影響で、高校時代から栄養管理には割と意識が高い方でした。また、北京五輪の代表に選ばれたときも、はじめてチームに専属の栄養士さんがついたタイミングだったので、バレーボール選手としては恵まれていたと思います。なのでインドア時代、試合の日は、直前に食べるもの、試合中に摂取するもの、試合後に食べるものといったように、食べるものもタイミングも全部、決めてその通りにやっていました。だけどビーチの世界で、これを同じように実践しようとしてもそれは無理な話。逆にストレスがたまって身体によくないと思っています」
というのもビーチバレーでは、試合時間も試合相手も、前日の夜にならないと決まらないことがよくあるからだ。その日の試合数も、当日の勝敗結果によって変わってくる。

「ワールドツアークラスでも、試合が終わって次の試合までにどれくらい時間が空くかわからないことが普通にあります。だからルーティンを決めてしまうとかえって辛くなる。なので今は、試合がないときは、高タンパク低カロリーの食事を心がけるなどできるだけ栄養管理をしっかりして、逆に試合の日はあまりシビアには考えず、その時にできるベストな方法を選択するようにしています。これは海外遠征のときも同じです」
試合があるときは炭水化物の摂取量を確保したいので、例えば、物価の高い国であればファーストフード店で食事をとることもあるのだそう。これはいくら楽しんでいるといってもトップアスリートにとって大変なのではないか、そして他にも何か海外遠征時の苦労話はあるかと聞いてみたのだが、「基本的に海外は好きなので苦はない」とのこと。これだけ海外を転戦していても、いまだに趣味は海外旅行なのだと笑う。
「飛行機は見るのも乗るのも大好き。食べ物の好き嫌いもないですし。むしろ遠征先が初めて行く場所のときはワクワクしています。気をつけているのはパートナーとの関係かな。今は違いますが、現地の食べ物を食べられないという人もいましたし。何より移動も宿泊もずっと2人ですからね。自分は何でも意見してしまうタイプなので、何か言ったあとは必ず相手の話を聞くようにしています。『自分はこう思うけど、どう思う?』といった感じで。今のところメンタル面はそれでうまくいっていますね。あと、海外遠征といえば最近お気に入りなのがKTテープ。飛行機移動の際、ふくらはぎに貼っているのですが、足が全然むくまなくなって、遠征に行くのがさらに楽になりました」

インドアとビーチバレーは、
似ているけど違うもの。

シャワーを浴びて着替えたあとは、自ら車を運転して、契約トレーナーが待つジムへと向かう。ちなみに越川選手は、大の車好きでもあるそうだ。
「トレーニングをする際は、できるだけ床反力に頼らず身体を動かすことを心がけています」
床反力とは、文字通り、床から跳ね返ってくる力のこと。インドアの選手たちは通常、この力を上手に利用しながら高くジャンプしたり、素早くステップする。
「それが砂の上だと全部力が吸収されてしまうので、同じように見えて、実は身体の動かし方がかなり違うのです。最初の頃はジャンプもダッシュもうまくできなくて結構苦労しました」と越川選手は振り返る。
そのため今でも、砂の上でのダッシュや切り返し、ジャンプといったトレーニングには、比較的時間をかけている方だという。
また、ビーチに転向後は、身体の厚みや幅がインドアの頃に比べて少し増量したそうだ。

「ウェイトトレーニングでやること自体は変わりません。ただビーチバレーはブロッカーとレシーバーの2人で8m×8mのコート全体をカバーするため、インドアよりも一人ひとりの守備範囲がかなり広くなります。それでどうしても身体から遠いところでボールを拾うことが増え、インドアの時と同じような体型だと力負けしてしまうんです」と説明してくれた。もちろん、筋肉をつけすぎると瞬発力が失われケガもしやすくなるので、バランスが大事なのは言うまでもない。
「といってもパワーが求められるというわけではないんです。むしろボールの触り方はインドアよりもビーチの方がずっと繊細。なぜなら天候によってボールの硬さや質が全然違うからです。風の強さや向き、湿度によっても、ボールの動きが変わるので、常に臨機応変に対応しなければいけない。これがビーチバレーの難しさであり、面白さでもあります。しかも自分が拾ったボールに次、触れるのは必ずパートナーで、そのまた次は自分と決まっています。パートナーのためにも自分のためにも、そして相手チームが嫌がるところにボールを返すためにも、触り方は本当に重要。これはインドアと大きく違うところですね」

期待されることも、自分にとっては大事な栄養素。

こんな風に、インドアの日本代表だろうが世界最高峰リーグだろうが、そしてビーチだろうが関係なく、どんな環境でも面白がってしまえるのが、越川選手の強みなのだろう。
「ただ最近は自分も年をとってきたので、『インドアのときのようにいつも近くにトレーナーがいるわけではない』という事実は常に頭の片隅に入れておくようにしています」と、少し真面目な表情になって越川選手は話してくれた。
特にセルフケアに関しては以前にもまして考えるようになったと言い、どこかに痛みを感じたりすると、イタリアで出会ったというラジオ波治療器(高周波温熱治療器)を必ず使用しているそうだ。
「イタリアでプレーしていたとき、左ひざ半月板の手術をしたのですが、その後しばらく腿がずっと張っていて、そんなときにラジオ波治療器に出会ったんです。当時はまだ日本で見たことがない治療器で、言われるがままに試してみると、その場ですぐに張りがとれて楽になりました。そのあとも腿が張るたびに使っていたのですが、次第に腿が張ること自体なくなってしまい本当に驚きました。物療でここまで効果を感じられたのは初めてだったので、それ以来のお気に入りです」

先ほど話にのぼったKTテープとラジオ波治療器、そして以前、アメリカの選手に紹介してもらったというエアマッサージ機が、セルフケアをする際の越川選手の必需品になっているそうだ。
「おかげで大きなケガもなく、なんとかここまでやってこれました。正直、ビーチに転向したばかりのときは、東京五輪を目指していると口にしながらも、それがどこまで現実味のある話なんだろうと、自分でも分からないところがありました。それが現在、『東京2020ビーチバレーボール日本代表チーム決定戦』の開催が決まり、そこへの出場資格がある自分たちは、五輪が狙える立場に辿りつくことができました。正確に言えば、上位チームを追う立場にあるのですが、正直、追われるのはしんどいので、自分としてはそれも好材料だと思っています。『インドアの日本代表エースだったんだから当然でしょ』と思って応援してくれていたファンの人たちからすれば、まだまだ期待に応えられていないと思いますが、必ず決定戦で優勝して本戦に出場しますのでもう少し待っていてください」
競技をはじめたときから、多くの人たちにずっと期待され続けてきた越川選手にとって、期待とは応えるものであって、決してプレッシャーになるものではないという。
「偉そうに聞こえてしまったら申し訳ないのですが、僕にとっては期待されることも大事な栄養素の一つです。これからももっと期待し続けてもらえると嬉しいです」
ここまでが、2019年の暮れに行ったインタビューの内容だ。そしてこの数カ月後に東京五輪の延期が決定。キャリアプランの変更を余儀なくされたアスリートたちも少なくなかった。ただ、バレーボール界のレジェンドにとってそれは、自身の置かれている状況や、日本バレーボール界の現状を改めて深く考えるきっかけにもなったようだ。その後に発表された3年ぶりとなるインドアへのカムバック。そしてインドアのシーズンオフには、可能な限りビーチバレーの大会にも参戦するという。「自分のバレー人生は常に挑戦」と話す越川選手の今後にこれからも注目していきたい。

バレーボール・ビーチバレーボールプレーヤー/ヴォレアス北海道・横浜メディカルグループ

越川優

(こしかわゆう)

1984年6月30日生まれ。石川県金沢市出身 身長189cm
横浜メディカルグループ(YMG)所属。
高校バレーの名門、岡谷工業高校に入学。
高校生初の全日本代表入り(2002年)を果たし、サントリーサンバーズ(Vリーグ)に入団。
北京オリンピックなど全日本でも活躍し、イタリアプロリーグ セリエAへ移籍。(2009年)
日本人5人目となる1部リーグプレーヤーとなる。(2011年)
国内復帰後も、最多得点部門 日本人選手歴代1位(2013-14)、JTサンダース初優勝(2014-15)に貢献、MVP獲得など活躍。
2017年にビーチバレーボール転向を発表。
2020年8月にV2リーグ男子のヴォレアス北海道への加入、プロビーチバレーボール選手としての活動継続を発表。
【主な受賞歴】
(2004年)Vリーグ 新人賞
(2007年)Vプレミアリーグ 最高殊勲選手賞
(2015年)Vプレミアリーグ 最高殊勲選手賞
(2017年)黒鷲旗全日本選抜バレーボール大会 MVP
Vプレミアリーグ ベスト6選出:
2006、2007、2009、2013、2014、2015 など
※2020年9月現在

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