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5章 7.筋力評価機器の変遷

7-1アイソキネティック誕生前までの筋力測定方法

アイソキネティック システムが開発される以前の主な筋力測定方法として、

1.バネや歪ゲージを応用した秤により筋力を測定する方法

2 .重錘などを使用し何キロの重量まで持ち上げられるかにより筋力を測定する方法

3. 徒手筋力テスト:MMT(Manual Muscle Test)による筋力の段階評価の方法

などが挙げられます。1の代表的なものは「握力計」や「背筋力計」などです。一般には個々の関節の筋力を測定する方法(測定器)はありませんでしたが、一部、体育(スポーツ)の研究分野において、握力計や背筋力計のバネや歪ゲージを応用した研究用の測定器を造って個々の関節の筋力を測定することは行われていました。

しかし、この方法は、握力や背筋力の測定でもわかるように、動いている状態の筋力計測はできず静的な評価しかできません。最近ではハンドヘルドダイナモメータといわれるロードセルを内蔵した徒手筋力計(モービィ 酒井医療製:第3章に紹介)などがあり、アイソメトリックでの簡便な筋力測定が可能です。

2の方法は動的状態で正確な最大筋力を測定することは非常に難しいといえます。しかもこの方法で最大筋力を発揮することは大きな危険も伴います。

3はリハビリテーションなどの筋力評価として段階的評価に使用されていますが、正常値以上の筋力評価を行う事ができず筋力を力の単位で評価できません。また当時臨床現場ではこの方法以外の筋力測定方法は殆ど無かったともいえます。

7-2 CYBEX Ⅱによる筋力測定

アイソキネティックを初めて実現したCYBEX Ⅱは、4つのパートで構成されていました。

ⅰ)速度を設定し、かつその設定速度を一定にコントロールする「スピードセレクタ

ⅱ)力を加える“入力桿=アーム(設定された速度以下でのみ回転)”を備えた「ダイナモメータ

ⅲ)ダイナモメータ内のセンサに加わる力を「トルク」として記録する「レコーダ

ⅳ)その他付属品セット(姿勢保持用ベッド、アダプター類など)

ダイナモメータ内部に、入力桿に加わる力(トルク)を検出するセンサを設け、検出した信号をレコーダで記録し、関節運動で発揮するトルクをほぼリアルタイムに読み取ることが可能となったため、「筋力トレーニング装置」という役割に加え、「筋力測定装置」という2つの役割を持った「アイソキネティック システム」として完成したのです。

CYBEX Ⅱは関節運動速度を一定に制御しますので、 レコーダに連続して記録されるグラフの横軸の経過は関節角度変移を示します。入力桿に加える力(トルク)は連続してグラフの縦軸に記録されます。

設定されたさまざまな速度における関節運動の角度経過と、その関節運動の動き始めから終わりまで連続して発揮されるトルクがほぼリアルタイムに全て記録できました。(但し初期型はトルクのみを記録可、後に角度計測も可能になりました)

当時は関節運動で発揮する筋力(筋トルク)を「動的状態で測定すること」は不可能でした。このトルクをグラフに記録し容易に数値化することで、それぞれの関節運動のトルクパターンを比較することが簡単にできるようになりました。これによりリハビリテーション医学のみならず、整形外科学、スポーツ科学、人間工学等さまざまな分野での臨床、研究、教育、トレーニングなどの分野に瞬く間に拡がり、応用されていきました。

7-3 アイソキネティックマシン:筋力評価機器の変遷

初期のBIODEX社システム。シングルチェア(写真 左)、デュアルチェア(写真 右)

CYEBXの誕生の後1980年代以降、利用範囲が急速に拡大する中で、他の海外および日本のメーカーからアイソキネティックマシンブランドが数多く誕生しました。
当初アイソメトリックとアイソキネティック(求心性)のみであったCYBEXに対して下記のような多くの要望が生まれてきた事がその背景にあったといえます。

・筋収縮メカニズム解明の研究のため。

・効果の高いトレーニングやリハビリテーションのメニュー開発のため。

・特定の部位(体幹)や単関節の回転運動以外の運動形態(クローズキネティックドチェーンやケーブルカラム応用)、疾患別対応(ACL)などへの適用の拡大のため。

これらの要望から下記の様な機能が追加されてきました。

 

1求心性(コンセントリック)のみではなく遠心性(エキセントリック)収縮モードの搭載。

2他動(パッシブ)モードや等張性モード、ショートアーク制御(リアクティブエキセントリックなど)の搭載。

3超低速度(1度/秒未満など)や高速度(500度/秒以上)などの制御。

4多種の運動モードの自動連続制御(リンクプロトコル機能など)。

5高い耐トルク性能(500NM以上)や高精度なトルク・速度制御(±1%以内など)。

6計測結果レポートの多様化(カラーマッピング解析:アイソマップisoMapなど)。

7簡便な統計・検索機能(バイオデックス データ解析ソフトなど)。

8外部機器との連動(筋電計との連動用外部出力など)。

 

・バイオデックス(米国)

BIODEX Medical Systems社は現在まで医療関連事業を60年以上行っており、元CYBEX社社員などが開発した商品がBIODEX SYSTEMです。BIODEXは1980年代後半にコンセントリックモード以外に当時CYBEXでは不可能だったエキセントリックモードやパッシブモードを備えた多機能型の筋機能評価システムを開発した後、世界中に販売網を広げており、現在当社では第4世代の「バイオデックスシステム4」を販売しています。(第1章に詳細を掲載)
また豊富なオプションを有しており、現在も新商品やハムストリングの肉離れなどの疾患評価用「ハムストリングアタッチメント」や「中枢疾患用上肢アタッチメント」などの評価用オプションを開発するなど活用範囲を更に拡大するために意欲的な活動を続けています。

その他のアイソキネティックマシン(全身用マルチジョイントシステム)の主なブランド

1980年代以降各社からCYBEX、BIODEX以外のアイソキネティックマシンが発売されました。日本で販売された代表的なブランドとその主な特徴を紹介します。(社名は当時)

 

・KIN-COM (米国 Chattecx社 1,982年発売 現在製造中止)

当時としてはエキセントリックな筋収縮モードを備えた機器として注目を浴びたモデルです。パッシブモードなど多様な機能を有していたモデルです。トルクセンサーではなく、アタッチメントのパッド近辺にロードセルを有しておりアーム長を入力してトルクに換算する必要がありました。体幹専用ユニットは簡易型ユニットを具備してました。

 

・LIDO (米国 Loredan Biomedical社 1,985年発売 現在製造中止)

スライディングアタッチメントなどユニークな機能を有していたモデルです。LIDO Lineaというレッグプレスモデルも有していました。

 

・MERAC (米国 Universal Gym Equipment社1,990年発売 現在製造中止)

トレーニングのために、%MVCなどに留意した特殊な機能として、計測した最大トルクカーブを元にして、この比率をトルクとして設定できる特殊なモードを搭載していたモデルです。座位で行う体幹用ユニットを具備していました。

 

・ARIEL (米国 Ariel Dynamics社1,984年発売 現在製造中止)

シングルジョイントシステムと別にハイスピードでのベンチプレスやレッグプレスなどが行えるモデルも有しています。

 

・PRIMUS (米国 Baltimore Therapeutic Equipment:BTE社 2,004年発売)

ケーブルを用いた高速動作でのADLやスポーツ動作のシミュレーションでの評価が可能なモデルです。

 

・CON-TREX (スイス CMV社 2,002年発売)

マルチジョイントシステムとレッグプレスに特化したモデルがあります。また体幹用ユニットは立位タイプを具備しています。

 

・MYORET (日本 川崎重工業株式会社 現在製造中止)

日本発の多用途筋機能装置です。多くの運動モードを有しており、動作を学習して再現するロボティックな動作も可能な特徴を有したモデルです。

 

世界で多くのブランドが生まれ、それぞれの機種は独自の特徴的な機能を有していましたが、時代の変化とともにいくつかのブランドは製造販売を中止しています。
しかし今後も新たな基礎研究や臨床研究などから、その要望に応える機能の追加や変更は生まれてくるものと考えられます。

関連製品

多用途筋機能評価運動装置

バイオデックス システム 4BDX-4

バイオデックス システム 4

豊富なデータをもとに、多様な評価機能と快適な操作性を両立。

豊富な研究・臨床データをもとに開発。

世界中の幅広い対象者に利用されているので豊富なデータをもとに順次レベルアップ。より被験者に合ったやり方で多くの部位の評価ができます。

高性能ダイナモメータを採用。

最大角速度500deg/sec、最大トルク680Nmのワイドレンジを実現。フルスケールでの誤差が、トルク・速度で±1%以内、角度は1°以下です。

日本語で操作でき、抜群の操作性。

OSは「Windows 7(日本語版)」を採用。アプリケーションは完全日本語化されていて、扱いやすい操作環境です。

多様な情報をさまざまに解析可能。

トルク・関節角度・速度などの情報をリアルタイム表示し、時間軸による波形データ解析ができます。
得られた情報をもとにパワーや加速能力など多くのパラメータをデータ処理できるので研究に便利です。
外部機器へのアナログ出力(トルク、角度、角速度)機能を標準搭載。

タッチ入力機能により操作性が進化。

モニター画面に触れるだけのタッチ入力による操作を可能にしました。
操作をアシストする「ウィザードガイド」や「日本語ナレーション動画ヘルプ」も標準装備しました。
ポジショニングの設定、手順などを含むマニュアルDVDを標準装備しました。